秋の七草
2002.9.30

今年は春先から例年より花が早く咲き始め、季節感が狂ってしまいますが、ふと、昔はどうだったのだろう?と思うことがあります。夏の花、秋の花・・、花によっては咲く時期も今とはずい分違ったのかも知れません。猛烈な勢いで増える外国産の帰化植物を見るにつけ、遠く万葉人達はどんな草花を見て暮らしていたのでしょう・・? 想像し出すと興味はつきません。

▲ススキミミズク(のつもり? ^^;)


秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花
芽子が花尾花葛花瞿麦の花女郎花また藤袴朝貌の花

万葉の歌人・山上憶良が詠んだこの「七種の花」が後に「秋の七草」と呼ばれ、人々の親しむところとなりました。ちなみに、芽子=ハギ、尾花=ススキ、朝貌=キキョウと言われ、「七種の花」は今で言うハギ、ススキ、クズ、ナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウを指すと考えられています。

ところで、これらの七草が万葉集にどのくらい詠まれているかというと、その数はまちまちです。いちばん多く詠まれているのが、ハギで141首、以下、オバナ33首、ナデシコ26首、クズ17首、オミナエシ12首、キキョウ5首、フジバカマ1首だそうです。ハギの141首はすべての植物の中でもトップで、ウメ119首、マツ80首よりも多く、フジバカマはこの憶良の歌に出てくるだけだそうです。

さて、この「秋の七草」、今の私達でも身近に見られるのでしょうか? ということで、今回は秋の七草巡りをしてみましょう。

ヤマハギ ■ハギ
マメ科・ハギ属
花期は6月〜9月
万葉集に詠われた回数ダントツのハギですが、当時のハギはヤマハギとの説が一般的。美しくかつどことなくはかなげなハギの花が、万葉人の心を捕らえたことは容易に想像できますね。
ヤマハギは現在でも野山で比較的簡単に探すことができます。

ススキ ■ススキ
イネ科・ススキ属
花期は9月〜10月
お月見にはかかせない草として誰でも知っているススキですが、鎌倉でもそこここに自生しています。空地などに時として大群落を作るので刈り取るのが大変です。鎌倉ではボランティアを募って刈り取り作業をしたりします。
ススキは穂が出てから綿毛のような果実が飛ぶまで、変化があって観察すると面白い草です。

クズ ■クズ
マメ科・クズ属
花期は8月〜9月
クズもすごい繁殖力です。鎌倉では人の手が入ってない野山はクズに覆いつくされています。他の植物を駆逐してしまうのが心配です。こんな風景(葛の木?)やこんな風景もよく見かけます。

カワラナデシコ ■ナデシコ
ナデシコ科・ナデシコ属
花期は6月〜9月
秋の七草でいうナデシコとはカワラナデシコを指します。庭に植えたものが逃げ出したのはよく見かけますが、自生のものはほとんど見かけません。“大和撫子”は絶滅危惧種でしょうが(^^;)、カワラナデシコも危ないかも知れません。庭では6月ごろに咲いているのをよく見かけます。

オミナエシ ■オミナエシ
オミナエシ科・オミナエシ属
花期は6月〜9月
自生のものは非常に減っているそうで、写真の花も栽培種です。栽培種はどことなく繊細さに欠けるような気もしますが…。これ(箱根・湿生花園)などは雰囲気はあるでしょうか? 一方オトコエシは結構自生しています。やはり女性はか弱いのかな・・。最近知った話ですが、自然交配種で白と黄色の花が混じって咲くオトコオミナエシというのがあるそうです。中性化してきたとは、何やら昨今の人間界とも通じるような・・?

フジバカマ ■フジバカマ
キク科・フジバカマ属
花期は9月〜10月
栽培種はよく見かけますが、野生のものはほとんどなくなったと言われてます。フジバカマに似た草にヒヨドリバナがありますが、これは鎌倉でも自生しています。花で両者を見分けるのは難しいですが、葉が深く三裂していればフジバカマのようです。

キキョウ ■キキョウ
キキョウ科・キキョウ属
花期は6月〜8月
自生のキキョウは山にでも行かないとなさそうですが、栽培種は庭によく植えられています。「秋の野草」というより夏、それも6月から7月頃咲いています。涼しげな青色と最近では白やピンクのもあります。



これで「秋の七草」を一応見ることはできました。しかし、このうち野山で日常見られるのは、ヤマハギ、ススキ、クズぐらいで、後は栽培種になってしまいます。これでは万葉人の世界にひたるのはちょっと無理でしょうか?
自然に任せておくと増えるもの、減るもの、結構短時間のうちに様変りしていくようです。そのうち「秋の七草」とは、ハギ、ススキ、クズに加えて、ミズヒキ、キバナコスモス、セイタカアワダチソウ、アメリカセンダングサになるかも知れませんね・・???

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